カラスノエンドウのずんだ餅
カラスノエンドウ。その辺によくある、無害な草だと思っていたこの植物。
ところが今年ベランダに生えたカラスノエンドウの豆でずんだ餡を作ってみたところ、杏仁豆腐のような強い主張の香りが!
杏仁豆腐、アーモンド臭といえば連想するのが有名な毒物、青酸 。
そう、未熟なカラスノエンドウには青酸、シアン化合物が含まれていたのです。
この記事を書いた頃調べた時にはあまり気にしていなかったので追記。
sazare-ishi.hateblo.jp
カラスノエンドウはその若い芽、花、豆が食用になりますが、生の豆に含まれる有毒物質としてまずあがるのはレクチン、シアン化合物(青酸)。 ・レクチン 豆やナス科の野菜などが害虫から身を守るために作る毒です。 TBSの番組で紹介された白インゲン豆のダイエット法で、加熱が不十分だったため全国の視聴者から158名の中毒患者が出た事例が有名です。 ・シアン化合物…青い梅、アンズの種子、ビワの種子にも含まれます。
青梅の致死量は100〜300個、いわゆる天神様、種子の中の胚には特に高濃度のシアン化合物が含まれていて注意が必要です。
梅やアンズに含まれているのはアミグダリン、カラスノエンドウの豆にあるのはビシアニンという青酸配糖体で、体内で分解されて青酸になります。
カラスノエンドウのレクチン・シアン化合物(ビシアニン)はいずれも微量で、5-10分程度の加熱調理で無毒化し安全に食べられるとされているようです。
実際に実食しているサイトや動画もあり、適切な量を十分加熱すればほぼ安全と思われますが…
ずんだ餅一食分は少量なのか多量なのか?
左上 最終収穫分 右上 青い豆(ずんだ用)と黒い豆(豆ご飯用) 青豆に砂糖を加えてすりつぶしずんだ餅に(完成画像は作った餡の半分くらい)
カラスノエンドウのさやから豆を出していると強いアーモンド臭がしてきます。
この場合のアーモンド臭とはナッツ(食用のスイートアーモンド)の匂いではなく野生の苦いアーモンド(致死量数十個)のことで、杏仁豆腐やアマレットの香りです。
この香りはシアン化合物が分解されて青酸ガスと一緒に生成するベンズアルデヒドによるものです。
梅の実、仁と比べてもかなり強い香りがしたので、シアン化合物の総量も実はそんなに少なくないのでは?という疑いが出てきます(一部使用までに冷凍保存していたことで、ガスの産生を促進したようです)。
Effect of partial substitution of wheat flour ( Triticum spp ) with vetch flour ( Vicia sativa ) on the technological and sensory properties of bread Lucía Buitrón a , Cecilia Dini b and Pedro Gustavo Maldonado-Alvarad カラスノエンドウの食用利用についての論文を見つけました。
Effect of partial substitution of wheat flour (Triticum spp) with vetch flour (Vicia sativa) on the technological and sensory properties of bread
www.researchgate.net
・カラスノエンドウは栄養的に優れている。
・しかしながら有毒物質、抗栄養作用を持つ物質(タンニン、トリプシン阻害薬、ビシアニン、βシアノアラニン)が含まれ栽培化されていなかった。 ・でも歴史的に飢饉の際に利用された記録では「かなり美味しい」とされている。
・ソラマメにも含まれるビシンとコンビシンが含まれておりグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼを持たない人にはソラマメ中毒をもたらす。
・これらの含有量は系統により大きく異なり、シアン化水素であるビシアニン含有量の少ない、あるいはまったく含まれない品種の開発に至った。
・浸漬、脱穀、熱処理などの加工でシアン化合物、タンニン、トリプシン阻害剤などを低減または除去できる。
・研究に使用したエクアドル産のカラスノエンドウ粉のシアン化合物含有量は0.3μg/g粉でヨーロッパ産(50.3~126.4μg HCN/g)よりも著しく低い。
・エクアドル産の安全なカラスノエンドウ粉を最大10%まで小麦粉の一部と置き換えて美味しいパンができた。
つまりカラスノエンドウは大体おいしく食べられるが野生のヨーロッパ品種(おそらくは日本産カラスノエンドウも)においてはやはりシアン化合物が問題になる可能性があるようです。
おそらくこの論文中のカラスノエンドウ種子(Vicia sativa seeds)は成熟種子なので、未熟な青いカラスノエンドウ種子には上の論文中より高い濃度でシアン化合物が含まれている可能性があります。
フランスでのシアン化合物食品汚染事例としてそば粉がビターアーモンドの臭いがするというクレームから調査したところ573 mg/kgのシアン化水素を含有するvicia sativa(カラスノエンドウ種子9.5%混入があったというものがありました。
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/print/syu03200550475
カラスノエンドウの玄米豆ご飯
成熟した黒い豆は豆ご飯にしてみました。
玄米に混ぜたら量も少なく分かりにくかったですが普通の豆ごはんの味でした。豆の味はするけど特に特徴的な風味も香りもない平凡な味。
アーモンド臭のする青い豆は20分くらい長めに加熱してずんだ餡に。
ちょっとドキドキしながら食べましたがこちらは杏仁豆腐のような香り豊かな、たいへん美味しいデザートになりました。
調理前にこの香りはなんだろう?と生の豆を3粒くらい食べましたが特に健康被害はありませんでした。
ちなみに厚生労働省の基準では食品中シアン化合物は10ppm(μg/g)を越えないこととされています。
2002〜2025年輸入食品の有害有毒物質違反459件中348件がシアン化水素によるものでした。バター豆、キャッサバ、亜麻の種子の他 中国産の杏仁ペースト、フランスのマカロン(アーモンド粉)、イタリアのアマレッティ(生杏子種子)などで最高濃度はイタリア産杏子種子の1900mg/kgでした。
japanfoodsurveillance.org
日本の杏仁豆腐は毒の少ない南杏を用いますが、毒性が強く日本では食品として許可されない北杏を使用した本場の杏仁豆腐は香り高くこくがあって美味しいそうです。
一方で毒性の強い北杏の仁は鎮咳作用、去痰作用を持つ生薬として流通、杏仁水、麻杏甘石湯、麻黄湯など保険適用もあります。
アミダグリンが分解されてできる微量の青酸が脳の呼吸中枢に作用して鎮咳効果を、ベンズアルデヒドが気管支平滑筋を弛緩させる効果をもたらします。
杏仁を利用したイタリアのリキュール、アマレットもそのはじまりは修道院で作られた薬用酒だったそうです。
※アミダグリンはかつてレートリルとも言われ抗がん剤としても使用されたことがありましたが1980年代に米国国立がん研究所が抗がん作用はないものと結論しています。
後日別の場所で採取したカラスノエンドウは氷砂糖と焼酎につけてアマレットもどきを作ってみました。
カラスノエンドウアマレット
アルコールに漬けることで数ヶ月かけてシアン化合物が分解されるはずですが梅酒でも仁には比較的高濃度のシアン化合物が残留するので豆は除いて飲む方がより安全と思われます。
https://www.pref.kagoshima.jp/ad08/kurashi-kankyo/kankyo/kankyohoken/shoho/shohou24/documents/111675_20240220105754-1.pdf
結論】
・カラスノエンドウの豆はシアン化合物を含んで有毒。
・加熱、アルコール漬けでおおむね無毒化できるが大量摂取はやめましょう。特に小さいお子さんは注意。
・遺伝的系統、時期、生育条件によりシアン化合物濃度は変動するものと考えられる。
・アーモンド(杏仁)臭が強いもの、苦味のあるものは特にシアン化水素含有量が多い可能性があり注意が必要。